劇場さんインタビュー

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん 第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん
時:2002年10月30日
場所:pamplemousse内
語り手:劇場主 小泉さん

~「今年でオープン7年目になります。」~

聞き手:
-本日はよろしくお願い致します。
さっそくですが、ここができてもう何年になりますか。

小泉さん:
ここは妹と二人でやっているんですが、95年の暮れにオープンしたので、もうすぐ7年になります。
(編集者注:原稿が掲載されている2003年現在は、既に8年目に突入されています)

聞き手:
-オープンされたきっかけや動機みたいなものはありますか。

小泉さん:
動機は、特にないかな。演劇に特別な思い入れがあったわけでもないし。どんなに夢見ても実現しないこともあれば、あれ?何でこんなことしてるの?と、まったく思いがけなく新しいことを始めていることってありますよね。そういう感じです。
成り行き…ですかね、そういう事にしておいてください(笑)

聞き手:
-そうですか。(笑)
では「パンプルムス」という名前の由来について教えて下さい。小泉さんご自身がつけられたんですか。

小泉さん:
そうですけど、これも特に理由はないかな(笑)。タイニイ・アリスみたいなかわいい名前がいいなあと思って、いろいろ考えたんですけど。ずっと使う名前だからとか考えすぎてしまって……。でも、オープン告知するために、早急に名前が必要になったので、結局思いつきで決めました。
パピプペポの発音がいいとは思っていたんです。パンプルをオープンするときにすごくお世話になった方が"ピープルスペース"はどうかとおっしゃってくださったんですけど、ちょっとリンカーンみたいだなと思って(笑)。その方には申し訳なかったんですけど、似て非なる"パンプルムス"になりました。
(編集者注:パンプルムスさんが出来たところは、以前「タイニィアリス」さんという劇場がありました。
尚、タイニィアリスさんはここから移転して、現在も新宿にて営業されていらっしゃいます。)

聞き手:
-なるほど。
ええと、もう7年も劇場経営というものを妹さんとお二人でされているわけですが、劇場主さんになられる前は小泉さんは何をしていらっしゃったんでしょうか。やはり小劇場関係ですか。

小泉さん:
私も妹も、ふたりとも全然関係のない仕事をしていました。観客としても、昔のつかさんとか自由劇場、東京ヴォードビルショーくらいしか観たことなかったですね。

聞き手:
-では、劇場経営をお二人でやって行かれる際に戸惑い等があったと思うんですけど、いかがでしたか。

小泉さん:
今考えれば不思議なんですよ。小劇場に行ったことすらほとんどなかったのに、ここの改装も付帯設備も全部、自分で決めたんですから。もちろんまわりのみなさんの善意と暖かいお心があればこそです。手探り状態でしたけど、人間、やればできるんですねえ(笑)
もう今では、劇団さんや新しい小屋番さんが来ても、一通りの説明はできるようになりました。それで、新しい小屋番さんにうちの業務を説明しようとすると、細々としたことが膨大にあるんですよ。一日中話しても終わらないくらい。「どうやってこんなに膨大な知識を蓄えたんだろう?」とわれながら感心します(笑)。
7年間、私たちはこれを全部、勉強してきたんだなと、最近思います。

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん
パンプルムスさん舞台です。
手前左側に入り口があります。
(通常は)客席側から取りました。

~「いい加減な団体さんが、たまに面白かったりする。そんなところが面白い。」~

聞き手:
-当初はどんな感じで劇場を経営していこうとお考えだったんですか。

小泉さん:
一応、ここをはじめたときに私たちが考えたことは、ほんとに安くて、手軽に、どんな人も使える小屋ということでした。これがまた大変なんですけどね。どんな人にも使ってもらえることにすると、とんでもないことも起こりやすいから(笑)
どんなことでも、何か新しいことを始めようとすると、絶対どこかで"最初の一歩"が必要なわけですよね。でも、いちいち審査されたり、実績がないとダメだったり、すごくきれいな小屋だけど料金が高い、みたいなことで挫折することもあるかもしれない。気持ちはあるけど、最初の一歩が踏み出せない人もいると思うんです。そういう人たちに「簡単に」という言い方も語弊があるかもしれないけど、"場"を提供できたらいいなと思ったんです。
たとえば事業を起こすときに、お金を借りようとしたら申請書を書くでしょう。そのとき単に「面白いからどうでしょう、お願いします」と言っても、融資してもらえない。しっかりした根拠や実績を示すことが大事なんですよね。でも芝居は、事業とは全然違うものだし、違うやり方もありだと思うんです。
まず気持ちが第一で、やる気があればとりあえずやってみればいいじゃない、という感じ。ある意味、"いい加減"でもいいと思う。いろいろ考えすぎないで、思いつきとか、ひらめきを大事にしてみる。もちろん、劇場の使い方がいい加減なのは困りますけど(笑)。
しっかりした劇団で、小屋の使い方もきちんとしているところは、やっぱり舞台も高いレベルを保っていることが多いですね。そういう劇団さんに使ってもらえるのは、うちとしても嬉しいです。
ただ、ごくたまにだけど、仕込みのいい加減な劇団で、すごく面白いものを作ることってあるんですよ。「いい加減な劇団は、舞台も今いち」という、ある意味オーソドックスなセオリーにあてはまらない部分もあって、私はそういうのも何かいいなーと思うんです。小屋側としては、大変なんですけどね(笑)。

聞き手:
-誰にでもっていうのは、大変そうですねー。

小泉さん:
ここを始めてから、演劇はいっぱい見るようになりましたけど、お金を取って
見せているんだからもっと頑張ってほしいという舞台もけっこうありますね。
簡単にお芝居の公演ができるようになると、その後が続かないというか、あまりにもやり易くなりすぎるための弊害もあるのかな、と思います。簡単に始めて、簡単にやめて、また簡単に始める、みたいなことを続けるのもねえ。何でもそうだと思うけど多少は、困難や障害があったり、心の中でやりたい気持ちを"溜める"時期も必要かもしれない。私のスタンスはあくまでも、みなさんのサポートですけど(笑)。それに安住しない気持ちを持ってほしい……望みすぎですかね。

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん
「パンプルムスさん」舞台をまた別な角度から撮っています。左手が(通常)客席側。写真奥が楽屋になってます。
入り口はこの写真だと左前方に位置します。
綺麗になさっています。

~「やはり良い事を言われると嬉しいですね。」~

聞き手:
-劇場をやってらして「嬉しかった・良かった」と思える点をお聞かせ願えますか。

小泉さん:
細々したことでは、「パンプルムスはスタッフの感じがいいのでやりたいと思った」と言われたり、「料金の安い劇場って、汚かったり、全然メンテができてないところも多いのに、ここは料金が安くて立地がよくて、メンテもしっかりしていますよね」と言われると、やっぱりすごく嬉しいですよね。私たちも頑張っている甲斐があるなーって。

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん
楽屋です。

聞き手:
-なるほどー。

小泉さん:
 あと個人的にも、私はわりと人見知りで、今でもそうですけど、何か"用事"がないと初めて会った人と話せない、自分から社交的にできないところがあるんですね。
何でもマイペースでやるのが好き……って、結局、ワガママなんですけど。だから毎週知らない人たちが「山盛り」来るなんて、つらいかなと思ってたんです。
でもやってみると、意外と楽しい。今までの私の生活では絶対会わない人たちとか、いろいろな人がいるんだなと、面白いです。
今は初めての劇団さんに使ってもらうときなんか、「また面白いことあるかな」という気持ちになってますから(笑)もちろん私にとってはとても愛着のある小屋なので、「いい加減に使われたらイヤだな」という気持ちもありますけど。何度も使ってくださる劇団さんと仲良しになって、毎回どんな芝居を見せてくれるかワクワクしたり、楽しいほうが多いですね。

聞き手:
-人との付き合いって言うところですね。

小泉さん:
実は今年、うちの小屋で出会って速攻、結婚なさったカップルがいるんですよ。照明さんと役者さんで、うちでの公演が初顔合わせで、怒涛の勢いで結婚に至ったそうです。 ふたり揃って「ラブラブで、恋愛呆けなんです」と言うので、羨ましいような、ニクラシイような(笑)
その公演のゲネプロで、役者さんがはけるときに、裏の段差で足を捻って捻挫しちゃったんですね。ちょうど私も見ていて、途中から足を引きずってるから「おかしいなあ」と思っていたら……。急遽、近くの整形外科を探して診てもらって、何とか本番はクリアしたんですけど。
後で聞いたら、これがまさに怪我の功名だったらしいです。普段は、バイトですごく忙しいのに、怪我のせいでしばらくバイトを休まなくてはいけなくて、そのせいで頻繁にデートができたらしい(笑)。
すごくお世話になっている方だし、おふたりが、「この小屋が僕たちのキューピットなんです」と言ってくれたのは嬉しかったですね。私も、他人の心配している場合じゃないんですけど(笑)。

~難しい面もあります…。~

小泉さん:
でも、何でこうなるかな、ということも多々あるんですよ。
たとえば、仕込みの日に照明さんが、いっぺんに3つの回路がNGだと言ってきたことがあったんですね。うちとしては、前の劇団さんのときは何の支障もなかったのに、「いきなり3つ?」という感じだったんですけど。
そのとき、たまたまシフトのやりくりがつかなくて、滅多にないことですけど、緊急のバイトの人に来てもらっていたんです。そしたらその照明さんに「仕込みの日にこんな素人の小屋番しかいない」とか「回路が3つもNGなんて状態の悪い劇場」だとか言われて、もう泣きそうになったらしい。
後でチェックしたら、回路は何の問題もなかったし、うちとしてもそんなふうに思われるのは心外だったので、バラシのときに「ヒドイ状態の小屋と決めつけられてショックでした」と話したら、「あ、すいません」って。ちょっと言い過ぎだったといってくれたので…。
照明さんも仕込みでてんぱってたから、そういう言い方になってしまったのかーと安心しましたけど。
こういうところから、あそこはヒドイ小屋だという評判がたったりするのかな、と反省もしつつ、ちょっとコワイなと思いました。

聞き手:
-はい。

小泉さん:
夏の真っ最中の、本番直前にエアコンが止まってしまったこともありました。原因不明だけれども、とにかく次の本番までに「何とか対処しましょう」と、扇風機やうちわを買いに走ったりしたんです。
ところが、その劇団の演出家が「どうしてくれるんだ、補償はどうなるんだ」って、それはもう険悪な口調で突っかかってらして。こちらに言わせれば、「エアコンを壊された」という気持ちだったんですけどね。「今はそれより、やれることは何か考えるときじゃないんですか」と言っているのに、「補償はどうする」の一点張りで大変でした。
次の本番前には、突然また動き出して、楽日まで何とかもったんですけど。
このときもも後で電気屋さんに調べてもらったら、劇団側が壁つきのリモコンを調光室のほうに動かしたせいで、配線がずれちゃったというか、パチパチしちゃったらしいんです。
原因もわからないのに、一方的に小屋のせいにされたのは、今でも思い出すと悔しいです。こういうトラブルは付き物なんだ、と自分をなだめていますけど(笑)。

~「立地と料金とメンテと笑顔(笑)」~

聞き手:
-うーん。
質問を変えます。どんな方たちにどんな風に劇場を利用して欲しいとお考えですか?

小泉さん:
私たちはどなたでもお使いになりたい劇団さんには広く門戸を開いています。私個人的には、やっぱり小屋を大事に思ってくれて、きれいに使ってくれる劇団さんが好きですけど。スタッフは可能な限りいい状態でお貸ししようと努力しているので、それを劇団さんがを楽しく使ってくだされば、それでいいと思っています。
それでも、うちから大きな劇場へと羽ばたいて行く劇団さんがいるのは嬉しいですね。メジャーになるのが一番とは思わないけど、より多くの人に認めてもらえて「よかったなー」って思います。でもそうなると、もううちは小さすぎて使ってもらえない、というジレンマはあります。

第6回:pamplemousse(パンプルムス)さん
客席部分の写真。
写真内の平台でひな壇を作ったりするようです。
客席も舞台もフラットなので自在な空間が作れるでしょう。

聞き手:
-では、最後にパンプルムスさんの特徴や利点をお教え願えますか。

小泉さん:
はっきりしてますね。立地のよさとリーズナブルな料金です。あと、みなさんが気持ちよく使っていただけるよう、メンテナンスも頑張っています。
それと……私の笑顔ですか。あんまり要らないかもしれないけど(笑)。

聞き手:
-(笑)今日は本当にありがとうございました。

以上第6回目、パンプルムス・小泉さんへのインタビューでした。
たくさんのエピソードや雑談を交えながら、お話を聞く事が出来ました。
「苦労はあるけれど、やっぱり楽しいよね」と小泉さんは最後におっしゃっていました。
小泉さんの明るさでパンプルムスさんは色々な問題ものりきってきたんだろうなぁと筆者はお話をしていて、そんなことをひしひし感じていました。
最後に一言。えー、掲載おくれてごめんなさい。

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