劇場さんインタビュー

第5回:STスポットさん

第3回:STスポットさん 第5回:STスポットさん
時:2002年10月16日
場所:STスポット事務所横
語り手:館長 岡崎さん

~法律で提供されたスペースが劇場に~

聞き手:
-本日はよろしくお願い致します。
ではまず始めに、STスポットさんができた概略みたいなものをお聞かせ願えますか。
どのようにしてSTスポットさんはここ横浜に出来たんでしょうか。

岡崎さん:
このスペースができたのは、企業さん等が新しいビルを作る時に一定のスペースを公共のために提供しなければならないっていう法律があるんですね。市街地環境設計制度っていう建築基準法上の決まりなんですけれど。それはビルの横の空き地の公園とか、そういう形で提供するというのが一般的なんですけど、それだと(広さが)足りなかったらしいんですよ。
それで、このビル(STビル)の中を「どうぞ公共の施設としてお使い下さい」って言う風に「企業側」から「横浜市」に提供されたんですね。で、横浜市は「じゃぁどうしよう」って言う事になったんです。
当時横浜市の方で、市内各区に1館は専門ホールを作り(区民文化センター構想)、横浜市の財団が館の運営などのソフト面を一括でやっていこうと行こうという考えがあったのと、相鉄本多(劇場)が2年後にできるっていうので、「まあここを演劇ゾーンみたいにして考えられるんじゃないか」って言うのがあり、まぁパイロット的な意味合いでここをホールにしたんですね。
ですから、スペースは所有している企業さんから無償で提供して頂いてるんですよ。当然、いわゆる賃料もないですし、運営してゆくための基本的な財源なども補助されているんです。

聞き手:
-貸し出し料安いですものね。綺麗なとこなのに。

岡崎さん:
出来た当初は「マルチスペース」って言ってまして…、というのはここまで劇場の姿をしていなかったんですよ。開館はしたものの、お金をかけてやれる状況ではなかったから,平台もなかったし、暗幕もなかったんですね。照明も14灯ぐらいしかなかったんです。
そういうわけで、当時はギャラリープラス簡単なコンサートとか、ちょっとした芝居ができればという感じでここがオープンされていたんです。それこそ目的がはっきりしてなかったので、「マルチスペース(笑)」。

第3回:STスポットさん
舞台面です。普通のビルの一角にこんなスペースがあるんです。

聞き手:
-今はけっこうSTさんは演劇が主体な感じがしますけれど?

岡崎さん:
そうですね。最初の半年くらいは、オープンしたものの全然電話もなかったんですよ。(笑)
というか、「ここがオープンしましたよ」と皆さんにお知らせするようなイベントも組めなかったし、そういう予算もなかったし…。ここを劇場として皆さんに借りていただけるようなハードの状況ではなかった。
ということもあって、
電話も「りん」ともならない状況だったんですけども、3ヶ月後ぐらいに地元の劇団がここに来たんです。彼らがここでやってくれたおかげで、彼らが「劇場としてここをつかえるよ」というのをプレゼンしてくれたようなものなんです。チラシをいろんなところに配ってくれて。

聞き手:
-それから団体が入るようになったんですね。

岡崎さん:
そうですね。
ま、利点としては駅から近いということと、料金がやすいということ。
加えて東京と状況が違うのは、横浜には芝居のスペースがほとんどなく、あるのは(キャパが)300~500のプロセニアムの劇場(ホール)。
ここを使ってくれる劇団さんは、20~30代の若い方。団体も小規模の10人前後の方たち。そういう方たちがプロセニアムで1回やったらそれで予算が埋まっちゃうと思うんです…。
そういう手頃な小空間がなかったという状況も、使ってくれる一つの要因になったのではないかと思います。

~名称の由来は…~

聞き手:
-1987年オープンということで、(2002年)11月で丸15年ですね。オープン当初から館長としてこちらに?

坂田さん:
そうですね。オープンする1週間ぐらい前に入ったんですね。
名前ももう決まっていたんですよ。
住友生命さんの「S」と戸田建設さん「T」でこのビルはSTビルと言うんですが、このスペースを提供してくださった企業に対してのお礼って言うか。それで「ST」。
時々、人には「すきま劇場です」とか
「すきずきシアターです」とか冗談でいうんですけど(笑)。私としては、いつかこの名前が変わるのかなと思ってたんだけど、いつの頃からか。みなさんがここを「ST」・「ST」と呼んで下さるようになったんですね。ですからこの名称が定着してそのままです。スポットというのはそれこそ「小さい」っていうことなのね。
それで「STスポット」。

第3回:STスポットさん
STスポットさんロゴです。

聞き手:
-STスポットさんを利用される団体さんについて、15年前と現在では違いなどはございますか?

岡崎さん:
ええと、オープンしてから3年で60劇団ぐらい使われるようになったのかな。それまでは東京でやってたり、神奈川県下の藤沢とか茅ヶ崎などでやってらした方がいらっしゃったんですけど、東京で活躍してた学生さんとか高校演劇とかが「地元に劇場ができた」というのでここを使ってくれるケースが多くなってましたね。
最近5年くらいは、大学の劇団よりもサークルの方が多くなったように思います。あとは団体の旗揚げで使われるというケースも多くなりましたね。

~ここ5年はダンスにも力を入れています。~

岡崎さん:
最近の動きと言えば、うちはダンスが非常に多くなりました。
「これから」というダンサー(対象は全国)を応援するプログラム(ラボ20)*1を'94年1月から自主事業としてやっています。
そういった事もあり、「ここでダンスもできるんだ」という風に認識されるようになって来たと思います。ダンス公演として使ってくれる方も増えました。「ラボ20」*1は、
今回で丸5年を迎えるので、その集大成として「ラボセレクション」をやりました。期間は1週間なんですが、それは全部で27組が参加してくれました。

聞き手:
-多数集まったんですねぇ。27作品を1週間で…。

岡崎さん:
そうですね、毎回「ラボ20」では1回に8組程参加していますので、今まで13回やりましたので、計算すると約100組になりますね。その中でセレクトして。
セレクションの過程についても毎回違うアーティストをお呼びして、キュレーターになり選んでもらうんです。キュレーターになる人も、自分がすごく苦しんで作品を作ってきた経過があるわけで、ですからそれだけダンサーが抱えているモノについて切実に感じて、そして応援してくれたりしています。
参加するダンサーは、公募の上そのキュレーターにオーディション選考されるんですが、それぞれの合否はもちろん、講評まで手紙でお送りしています。
その後受かった人(=出演者)に関しては公演1ヶ月前に、公開ディスカッションに参加して頂いてます。これは出演者が創作過程の作品を上演し、なおかつその内容に関してキュレーターやテクニカルスタッフ(照明・音響・舞台監督・制作やコーディネーターなど)と意見交換をするんです。出演者・スタッフ両者が対話を重ねながら公演を作っていくんです。
ですから単に作品の場というよりは、ダンサーはもちろんのこと、振付家や演出家の養成学習みたいな意味合いも「ラボ20」は含んでいたりしますね。

第3回:STスポットさん
STスポットさん客席の図。右奥に見えるドアは外に(外と言ってもビルの中ですが)通じています。

聞き手:
-それはダンス文化を育てていくっていうことでしょうか。

岡崎さん:
そうですね。実際このプログラムにはダンサーがすごい関わっているんですよ。彼らが「こういうモノが足りないんじゃないか」とか、「こういうことが問題なんだ」というような切実な思いがあるわけですよね。それを具体的なプログラムにしていったら「ラボ20」になってしまったということなんですよ。
例えば、ダンサーは自分の体を使って自分の表現を作品化してるわけなんだけど、その過程で「客観的な意見を聞きたい」っていう思いがあったりとか、「どういう風に見せていけば一番良いものになるんだろう」という疑問があるわけです。そういったことに関して、「ラボ20」ではテクニカルスタッフ等と相談しながら作品を創作していくという状況を用意しています。また、オーディションに通らなかったら、「どうして駄目だったのか知りたい」というのもダンサーの中には単純にあるわけですよね。それは「一つの見方」ではあっても、それをダンサーにきちんと伝えていこうということもやっております。ですから講評まで手紙でお送りするんです。
そういった事を積み重ねて言った結果、「ラボ20」になってしまったということなんですね。
また他のダンスシリーズ(JCDN*2のプロジェクト等)でも積極的に他団体と連帯しています。STスポットはアーティストの推薦と、公演会場の提供と言う形で参加しています。

*1:ラボ20
20分以内のダンス【ラボラトリー=実験室】の意。身体表現の新たな局面を開こうとするアーティストのための公募プログラム。1997年1月開始。出演者は毎回異なるキュレーターによりオーディション選考され、キュレーターやスタッフと対話を重ねながら作品を作っていく。第3回より優れた作品を上演した出演者に「ラボ・アワード」が授与される。
*2:JCDN
正式名称:NPO法人 ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク
ダンスの持っている力を社会の中で活かしていくこと,子供から老人まで日常生活の中でダンスに振れる機械を創ること、その為の環境を創ること、それがJCDNの使命です。(JCDN
DANCE FILE Vol2内 JCDN設立趣旨から抜粋)

~劇場の仕事を超えて?~

岡崎さん:
でもやっぱり大きなものは演劇なんですよね。STを使ってくれるうちの約7割が演劇の方で、ほぼ毎週末演劇の公演が行われてるんですよ。
普段の単独公演のほか、STを利用して下さっている劇団さんを中心とした、ある程度ローカルを意識した「演劇フェスティバル」を主催しています。また、「神奈川戯曲賞」のプログラムについても、企画の最初の段階・審査の進め方などと言ったソフトの部分を県の方と相談しながらやっています。STスポットでの公開審査や優秀作品のドラマリーディングなども実際やっています。
これも、STでやってる活動してるといいうよりも、県と地域の中で戯曲と言うものを考えていくと言う考えでやっています。その中で色々なネットワークを構築したり、それがいろんなことに繋がっていくんですね。

第3回:STスポットさん
STスポット活動記録。
たくさんの企画や自主事業による活動が約100ページの中に収まっています。

聞き手:
-なるほど。

岡崎さん:
あとは、ダンスのJCDNで作成したものを「STスポット」がまとめて本にしたんです。(JCDN DANCE FILE)その一部をHPでも公開しています。これは、「どんなところにアーティストがいるのか、ダンサーがいるのかわからない」などという問題に答える本です。またダンサーに限らず、プロデューサーや組織、国内外の公募ダンス企画やコンペティション批評家やアドバイザーなどを一つの本にまとめてあります。
ダンサーはダンサー自身で創作プロジェクトを実現していかなきゃいけないっていう問題があるんです。自分で「スタッフを集めなきゃいけない」・「小屋を借りなきゃいけない」っていう。
そういう活動を行うために、「どこに何があるのか」という情報が載っているんですよ。場合によっては海外にチャンスがあるかもしれない。海外ではわりと一人で行っても比較的作品を発表できる機会ってあるんです。実は日本で1回単独公演をするのと2回海外で発表するのと予算的に変わらない場合もあるんですよ。また、ダンサーに限らずプロデューサー等にとっても役立つデータやアイデアが有ると思います。
HPで公開している情報には、それでも一部分なんですけど、実際に海外に住んでいるアーティストや、インターネットの情報等もまとめてあります。
これはひょっとしたら劇場の仕事ではないかもしれないけど、
私が考えているのは、「劇場」っていうのは「施設」だけではなく、また、作品を作る・発表する機能だけじゃないと思うんです。例えば人と人とをつなげたり、ネットワークを構築をしたり、場合によっては教育的なことまで、そういう色々な機能があるのがほんとは「劇場」じゃないかと思うんですよ。それはSTの利用ひとつをとってみても、他の団体との連携とかに繋がっていくわけだと思うんですよ。

聞き手:
-色々なことをやっていても、根っこにある考え方はひとつなんですね。

岡崎さん:
ひとつです。(笑)

第3回:STスポットさん
JCDN DANCE FILE vol2。
これ、ダンス関係の方には必携の本ではないでしょうか。良くこんなに調べてまとめたものだ、と感服してしまいます。

~海の向こうの劇場は~

岡崎さん:
ここが10年ぐらいしたときに、そのころアートマネージメントというのがマジックのように言われてた時期なんですけど、私はもともと現場からの人間で、そういうのはぜんぜん分からなかったんですよ。本も読んだけどぴんとこない。
劇場を訪ねるたびに疑問が沸いてきて・・・。それで文化庁のやつで海外体験をしてきたんです。
そこの劇場はコンテンポラリーダンスを中心とした(キャパ)300ぐらいのものだったんですが、その劇場を一から作るっていう作業をしたんです。客席を作って、ペンキを塗ったり照明の配線とか…。
そこで「劇場が好きだ」ということを改めて認識しました。そして運営に対しての情熱と愛情が大切だというのは、どこの劇場でも変わらないんだということも理解して帰ってきましたね。
あといくつか事業のアイデアも盗みました。さっきの「ラボ20」も、海外の若手が企画する時に選ぶ人を変えてたのを真似したものです。あとは、彼らの空席を作らないようにする「執念」みたいなものも学びましたね。空席は、金額換算すると一席いくらになりますよね。空席は、無駄なものです。だから是が非でも入れようとします。

聞き手:
-執念ですか。

岡崎さん:
PR手段としては、ポスターやフリーペーパー。あちらにはチラシがないんですよ。あとはホームページですね。特にあちらは、他の団体とのネットワークというものを非常に大事にしてましたね。
DMリストの交換なんかは一般的なんですね。マーケットは広げていくことによってお互い相互利益を得るという、そしてマーケットそのものを広げていくっていう考えなんですね。大きな問題には、「はっ」とみんなで取り組むんです。例えば地域の中で変えていきたい問題とか、マスコミの人たちを一同に集めるとか、そういうところはネットワークが機能している。
ひとつひとつでは解決できない問題に対して、そのネットワークが存在してるし、ネットワークを維持するためのスタッフの活動費も与えられていますね。
あとホームページがずいぶん発達していたので、帰ってきてからはSTスポットのホームページはすぐやりましたね。
そういう海外体験が今の私の考えに及ぼしている影響は大きいと思いますね。今も海外行く度に劇場をまわっています。趣味なんですよ。(笑)

~STスポットという空間と横浜~

聞き手:
-「STスポット」という空間についてはどうお考えですか。特徴などありましたらお聞かせ下さい。

岡崎さん:
ここは非常に限られた空間なんですよね。楽屋も狭いし、袖もほとんどない。この空間で出来ることって言うのは限られているかもしれない。だけれども、この小さい空間だからこそ出来ることもあるんじゃないかと私自身は思いがあります。それは、
小劇場って言うのは新しい価値を育てる実験場だと思うんですが、
STはその小劇場の中でとりわけ小さいと思います。
ただ、小さいっていうことは人を繋ぐのには非常に有効なんですよ。
狭いだけに親近感をもってそこからアイデアが生まれることもあるんです。
だから「小さい空間だからこそ出来ること」を実現している舞台を時々みると、すごく幸せになるし、新しい発見があったりして…。そういう楽しい想いがたくさんあったので15年は本当にあっという間でしたね、苦労も感じないし。(笑)
他の小劇場のオーナーさんのように、自分のお金で施設を作ってっていうのすごく大変だと思うんですよ。私の場合は、企業さんとか行政の中でやっているからずいぶん楽な形でやらせてもらってるなと言う風につくづく、実はあなたのホームページを見て、思ったんだけど。
だからこそその恩恵みたいなものを、いかにして観客やアーティストの皆さんへのサポートに還元できるかということを常に考えています。また、それが「ラボ20」や「スパーキング*3」に繋がっているわけです。

聞き手:
最後に、横浜についてはいかがでしょうか。横浜という土地で活動されている事について、何か思い入れやこだわりみたいなものはあるんでしょうか。

岡崎さん:
「横浜のSTスポット」であったから今まで続いたんじゃないかと思うんですね。
横浜の演劇・劇場事情が大変きついっていう状況があって、東京だとたくさんあるかもしれないけれど、こういう小さな実験が出来る場所の存在意義はここ横浜ではあるんじゃないかと思います。
かといって私たちが対象としているのは横浜だけかと言えば、そうではないですね。
例えば去年のスパーキングシアターの参加団体も東京在住の人たちばかり。でもここで活動をしていたりする。またここの自主事業やプログラム・ワークショップやセミナーなども、横浜に限らずいろんなところでやっているんですね。そういう意味ではこの劇場にかぎってるわけではなく、場所はどこでもいいんです。
横浜のローカル性みたいなものは、劇場側が作るものではなく、例えばここの劇場から出た「作品」や「活動」自体が作っていくものかもしれません。

聞き手:
-どうも、本日はお忙しい中ありがとうございました。

*3スパーキング
スパーキングシアター。1990年より開始。STスポットや神奈川を活動の拠点とする劇団参加により演劇フェスティバル。
他に演劇ではないが、月例の落語会「八七四亭(はなしてい)」やさまざまなジャンルの注目ナンバーワンのアーティストによる一人舞台シリーズ「ベストワン・ライブ」など様々な自主事業も行っている。

以上が今回のインタビューでした。岡崎さんはとても朗らかな方で、この他にも書ききれないほどたくさんの事をお話をしてくださいました。
お時間が押しているにもかかわらず1時間もお付き合い頂いて本当にありがとうございました。
「プロデュース活動」として「劇場」を幅広く最大限利用するスタンスと、小劇場ならではの軽いフットワークが岡崎館長の人柄を通して伝わってきたように思います。活動の仕方って、ほんとうに様々でお人柄が出るんだなと改めて感じた次第の筆者でした。
最後に,今に始まった事ではありませんが、掲載の方がなんと予定から半年もたってしまいました。深くSTスポットさん並びに読者の方々にお詫び申し上げます。

第3回:STスポットさん STスポットホームページ
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