第3回:新宿サニーサイドシアターさん
第3回:新宿サニーサイドシアターさん
時:2002年9月4日
場所:新宿サニーサイドシアター・喫煙所内
語り手:劇場主 坂田さん
~カレー屋だと思っていたら劇場が!~
聞き手:
-本日はよろしくお願い致します。
まず、坂田さんが新宿サニーサイドシアターをお作りになったきっかけというか動機をお聞かせ願えますか?
坂田さん:
自分が、役者と劇団と、マスコミの方の役者をやっていたんですね。
だから作った、と言う単純な流れなんですけれど。
でも最初は違うんですよ。ここを見た時には「カレー屋」をやろうかなと思ったんですよ。
聞き手:
-は?カレー…ですか??
坂田さん:
カレー。全く芝居とは別物で、それは単に自分の生活のためにやろうかなと。
芝居で食べていくというのはかなり僕は難しいと思いますし、芝居で食えてはいないし、芝居で食おうとは思わなかったですし。
大学時代一緒に芝居をやっていた友達がいまして、大手の文化座さんなどでもやってた人なんですけど、彼が有名なカレー屋(カレー博物館にも入っている!)をやっていて、そのルーをもらって商売をするって言う事を考えたんですよ。
←
新宿サニーサイドシアターさん外観。
新宿2丁目という好立地。
階段を降りて地下に行きます。
防音は抜群。ちょっと周りが暗いのは、夜だったのと私の撮り方のせいです。
←
聞き手:
-カレー屋さんが劇場になったのはどうしてなんでしょう??
坂田さん:
最初のきっかけとしては、カレー屋をやろうと思って中に入った時ですね。
「劇場が出来るんじゃないか」と思ったんですよ。ふと。
ふと、なんですよね。小劇場を貸して、収入を得て…って言う事までは考えてなかったですね。「自分の劇団の持ち小屋ができる」ということで、「やりたいな」って最初思ったんですよ。
聞き手:
-その「ふと」っていうのは、どこから来たんですか?坂田さんの中にやはり何かしら「劇場」ということも無意識にお思いだったんでしょうか。
坂田さん:
まあ、どっかしらあったとは思うんですよね。うちの劇団がちょっと前に下北沢の居酒屋で月1公演、12ヶ月連続で芝居をやるっていうのをやったことがあったんですよ。
キャパは30ぐらい入るようなところで。その時に「あ、こんな狭いところでもできてしまう」というか、「作ってしまえば劇場になってしまう」っていう経験があったんですよ。
そういう経験もあって、ここ観たときに、「ここは劇場になる。劇場にしよう」と思ったんですね。
だから最初から劇場を作るために場所を見つけてっていうのではなかったんですよ。
で、劇場にしようと思って始めたら、やっぱお金かかりますよね。家賃も合わせて考えると、今まったく商売にはなってないんですよ。それでも、回転さえしていればいいなと思って。ま、やっちゃおうということになったんですけど。
~サニーサイドとは…~
聞き手:
-作って頂いて本当にありがとうございます。
そしてサニーサイドさんの名前の由来はどういうところなんですか?
坂田さん:
これは、最初ある程度サニーサイドが有名になってきたら、その「サニー」っていうのは何ですかっていうのをクイズにしようと思ってたんですけど…。
僕は、つかさんのファンなんですよ。劇団を始めたきっかけっていうのはつかさんの芝居を見たのがきっかけなんです。紀伊国屋(ホール)でつかさんがやられてて、風間杜夫さんが出ている頃ぐらいまでですね。紀伊国屋で座布団持たされて、階段までギュウギュウ詰めにされながら見た時代の、つかこうへいの芝居なんですけど。
入れなかった人が消防所に電話して…。「あそこはギュウギュウ詰めにしてます」って。それ以来もう今入れてないですね。あの頃は階段まで座らせたから、トイレも一切行けないみたいな。(笑)
その舞台で僕は芝居が好きになって・・・。それ以前はマスコミみたいなことをやってたんですけど。つかさんの芝居をみて劇団をやろうと思ったんですね。
それが僕にとっては、紀伊国屋の舞台がサニー(太陽)なんですよ。紀伊国屋の板に乗りたいと思って。昔は割と紀伊国屋の板にのりたいって劇団やっているところも多かったと思うんですけど。
単純な話、つかさんがやってた紀伊国屋っていうのが僕にとってはサニーなんであってそのサイド(横)のここで、小さな小屋を持って、やるっていう。そう言う意味でサニーサイドシアター。
←
入り口の階段。
奥に喫煙所スペースとトイレが男・女一部屋づつあります。
降りて右手が舞台への入り口。
←
聞き手:
-そうだったんですかぁ。
坂田さん:
僕はつかさんの芝居が好きで、影響されているんですよ。
聞き手:
-第2回目の演劇祭をやられますしね。つかこうへいのお芝居がテーマで。
坂田さん:
本当は最初にやりたかったんですけれど。
こんな小さいところでつかさんの芝居ができるのかっていうのもあって・・・。まぁとにかくいっぺんやっちゃおうと。それで「つかこうへいざんまい」っていうのを第2弾でやるんです。
~「きまり、きまりで…。」(オープンまでの数々のご苦労)~
聞き手:
-実際に、「劇場を作る」となってからオープンするまでに大変だった事はありますか?
以前少しお聞きした事はあるんですけれども…。
坂田さん:
消防署と保険所ですね。許可が必要なのは保健所なんですけれども、消防法もからんできて。
一番大変だったのは、キャパですよねー。ここでキャパをどのくらいにできるのかっていうことですね。劇場の椅子の大きさって決まっていて、固定じゃなきゃいけないんですよ。大劇場なんかは映画館にあるような固定の椅子なんで、基準で作っていると思いますけれど、その基準はこっち(小劇場)にも適用されるんですね。それで計算すると、全然キャパとれないんですよ。
最初は客席もばらせるようにして、好きに作れるっていうのが小劇場は理想だと思っていたんで、そうしたほうがいいと思ったんですけど、それは出来ないっていうことなんで。で、「桟敷っていうのはどうなんですか?」って聞いたら、「桟敷は別に構わない」って言うんですよ。
消防署は、火事になって飛び込んできた時に椅子が動いたりすると、「消防の作業をするときに邪魔」だと言うことで。固定だと動かないわけだからそこに乗る事も出きるし。で、桟敷って言うのは何も無いわけだから、「桟敷はいいですよ」っていう。だから「全くの平らで布団だけ敷いておいて」というのは、それはOKなんですよ。
それで、「桟敷の変形で、段を作ってそこに座るっていう形だったらどうですか」って聞いたら、「それだったらいいですよ」っていうことで許可もらって、それでひな壇状にしたんですけど。それも固定しなきゃ行けないから、固定って言うことで。
聞き手:
-そんな基準があったんですね。
坂田さん:
あとは保健所の方が、換気の事ですね。1時間にどれくらいの空気が入るかっていう計算があって、それをパスしなきゃいけないっていうのがあって。
結局でかい換気扇を上につけたんですけども。それいれたんですけど、あれも高くて。あれも何か不自然ですよね。
あとトイレですね。トイレは、「この広さ、高さだと便器が二つないといけない」っていう訳で。1個ずつ男女分けなきゃ行けないんですよ。
奥の楽屋のトイレは別に必要無かったんですけど。
←
楽屋です。
楽屋用トイレがあるのは嬉しい限りでしょう。
←
聞き手:
-楽屋のトイレは便利ですよね。
坂田さん:
あとは喫煙所ですね。喫煙所を作らなきゃいけない。「外で吸えばいいんじゃないですか」って言っても、作らなきゃいけない。ここは一応事務所にしたかったんですけど、喫煙所ってことで。広さも、「全体の広さの20分の一以上にしなきゃいけない」っていうきまりがあるみたいで。きまりきまりって、大変でしたね。
地下じゃなかったら全然平気なんですよ。地下だから、換気もそうだし。
聞き手:
-その代わり防音はきちんとできますよね。
坂田さん:
そうですね。話が始まってからいろいろ手続きとかあって、結局1年ぐらいかかっちゃったんですよ。
なんか良くわからないですけれど。ま、大変だったと言うわけです。規制があって。
~ひな壇も平台も、坂田さんお一人の手作り(!)~
聞き手:
-ご苦労の末、この立派な劇場が出来たんですねー。
坂田さん:
立派でもないじゃないですか。
ひな壇にしても、僕一人で作ったんですよ。
聞き手:
-え、お一人で作られたんですか?
坂田さん:
全く僕一人で作ったんですよ。材料を大工センターみたいなところに買いに行って、その時だけは手伝ってもらいましたけれど。ま、中に運んでもらって。
で、あと組んでいくのは一人でやりました。一応自分で考えたカタチで切断してもらって来てるから、それに合わせて作っていくんですね。でも、一人じゃできない事もあるんですよ。長さとかの関係で、「こっちで持ってもらって欲しい」っていうところとか。
なんとか、でも一人でやって・・・。
やってくと人間だんだんうまくなっていくんですよ。(笑)やってって最後の方になると、「あ、最初のあそこ、こうすれば良かったな」とかって後で思うんですけど、「まあしょうがないなぁもう作っちゃったから」とか、思いましたね。(笑)
あれ「ばらせ」っていわれたらかなり大変ですね。「こればらしてもいいですか?」っていう劇団さんいたんですよ。でも僕が作って、「元に戻すの無理じゃないの」って思ったから、「それはちょっとかんべんして下さい。」って言ったんですけど。
あと、平台ありますよね。あれも一人で作ったんですよ。
→
これがお一人で作られたというひな壇。
作りはとても手作りとは思えない程しっかりしています。
→
聞き手:
-え、平台も全部ですか?
坂田さん:
8枚しかないんですけど。あれも一人で作ったから、釘打ちの平台になってますけどね。普通の平台って組むカタチですよね。そうじゃない平台だから、使いづらいと思うけど、まあ、手作りのあれでいいかなって。
それもまあ経費節減のためなんですけど。
聞き手:
-ひな壇も、平台もお一人で作られて…。
坂田さん:
執念ですね。舞台装置作るのと同じ感覚っていやぁ同じ感覚なんですよね。(笑)
聞き手:
-たたきっていうのは、以前もなされてたんですか?
坂田さん:
まあ劇団でずっとやってて、僕は作・演出だったんですけど。ウチは舞監さんとか雇ってとかそういう事一切しなかったから。全て自分達でやってきたんで、多少はできるかなっていう。
聞き手:
-私が言うのは失礼にあたるかもしれませんが、そうはとても見えません。
ひな壇なんか充分立派だと思います。
坂田さん:
そうですか。そう言っていただけると・・恥ずかしいですよ。(笑)
~「面白いなと思ったら協力したいなと思います。」~
聞き手:
-オープンさせてからは半年になられますか。
坂田さん:
柿落としが1月末でしたけど、実質劇団さんが入ったのは3月ですよね。
だから、半年ですね。
聞き手:
-その間、実際運営してみていかがですか?何か運営する前に思ってた事と違うというような事はありましたか?
坂田さん:
そういうもんはなかったですけどね。
ただ、大変だなっていうのはあります。
その、毎回新しい人が来て、新しい人と接して。ある意味楽しい部分はあるんですけど、ま、色んな人がいますしね。人とあんまり接して商売をやっていくっていうのは得意じゃないから、そのへんは非常に大変は大変ですけど。
→
客席から舞台方向を撮った写真。
キャパシティは50~60と言ったところ。
舞台の広さは、4.25m×5m程。
奥の梁手前右手に楽屋があります。
→
聞き手:
-商売人になりきれないというような事ですか?
坂田さん:
なれないっていうか性格の問題ですよね。ここは兎に角狭いから、事務所っていうのがなくて…。
他の劇場さんは事務所があって、そこに入って他の仕事してれば、劇団さんと接する機会ってあんまりなかったりするじゃないですか。でもここだと、そういうスペースがないから、でもある程度ここに居なきゃいけないから、劇団さんと接する時間が多くなるんですよね。
そうすると色々劇団さんのことが見えてきたり、でまあ、しんどい部分もあったりとか。
聞き手:
-しんどい部分と仰いますと?
坂田さん:
だから、なんていうか、「いい感じで接したいな」って思っていても受け入れてくれないっていうところありますよね。そういうところでしょうね、恐らくしんどいのは。もっとこう、コミュニケーションとってやろうよみたいな気があるんで。
僕も劇団ずっとやってて、他の劇場いったりすると、やだなと思う劇場さんありますよね。劇場主さんの中には、あんまり劇団と関わらなくて、割と偉そうにしている人もいるから、それに慣れた劇団さんていうのは僕の事をそういう目で見たりするところもあるのかなってそう思ったりするんですど。
ただ、なんていうのかな、僕は皆と楽しくやってくっていうほうがいいから。
ま、僕は嫌な劇場主さんはできないし。民宿の親父みたいな気分にになっちゃうんですね。「若いやつらが来るから」って。だから帰って行く時に「ほんとにお疲れ様」っていう気持ちなっちゃって…。そういう名残惜しい感じで帰ってくれる劇団もいるし、そうじゃない劇団もいるしっていう。
←
喫煙所兼事務所。階段を降りたところ。
こちらでお話をお伺い致しました。
奥が客用トイレ。男女ひとつづつ。きれいです。
←
聞き手:
-なるほどー。
この先、サニーサイドさんをどんな方に使って頂きたいですか?
坂田さん:
うーん、どんな人にっていうのは無いですけれど、まあ最終的にはいい芝居をやって、売れていく劇団がここから出て欲しいっていうのはありますよね。
ゲネはもうほとんど見させてもらってるんですけど、そこで見て、その中で面白いかなって思う人には、「あの、協力させてもらえますか」みたいな話はしてるんですけど。
自分の劇団ずっとやってる頃は、あんまり人の芝居って見たくなかったんですよね。人が気持ち良く芝居やってるのあんまり見たくなかったんで。(笑)
でもこれ(劇場)作ってから、「劇場を運営してる」って言うもう一つの姿があるんで、どうしても気になるんですよね。どういう芝居してるのか。いい芝居してたらほんとに「やっぱ面白いな」って思うし。「これはもう少し畳み掛けていけば、もっと売れる劇団になるんじゃないの」って思ったら協力したいなと。まあこんな狭い劇場で何ができるか分からないですけど、協力したいなと思っちゃうし。
~サニーサイド演劇祭~
聞き手:
-では、フェスティバルの話をさせてください。第1回のフェスティバル*1を終えられたところだと思いますが、フェスティバル開催の動機はどのような?
坂田さん:
動機は、単純で。お祭りをやってみたい、っていうのがあって。
でも、単純なフェスティバルだったらやらないほうがいいなぁと思っていて。
で、考えたのが「テーマを一つ決めて、それに沿った形の作品を集めてやる」っていうのが一番いいんじゃないかなって思って。
最初やっぱ「幕末モノ」って言うのがあって。
で、うちが参加するのもおかしいんだけど、最初はトップをうちがやりたいなっていうのがあって。うちは幕末だったら作品3つぐらいもってるし、それに幕末だったら方々でやってるから、参加する方もいるかなあと思ったんです。
そうしたら、案の定わりと良い方が参加してくれて、うまいカタチで終わったなと思ってるんですけど。
*1:第1回フェスティバル
第1回サニーサイド演劇祭「幕末ざんまい」の事。期間は2002年7月31日~9月1日まで行われ、期間中5団体が入れ替わりで「幕末」をテーマとした作品を上演した。
最優秀演劇団体には新宿サニーサイドシアターの5日間無料使用券を贈呈。第1回最優秀賞は「さるしげろっく」。
第2回は「つかこうへいざんまい」を来年1月6日~2月9日に予定している。詳しくは下記の劇場ホームページまで。
聞き手:
-1回目のフェスティバルを終えられて、やはりやって良かったと言う事ですね。
坂田さん:
やって良かった。不安だったんだけど、やって良かったと思ってます。やったおかげでサニーサイドの名前もある程度外に出す事が出来たと思いますし、全部(5作品)見てくれたフリーのお客さんも結構いたんで、審査も出来て良かったです。
次は、劇団さんと「お祭りをもっと楽しむ」と言う事を大切にしたいですね。それで1回目よりも、もっと活気が出てくれれば良いですね。お客さんがフェスティバルを通して、もっと流れてくれれば。
どこまで規制していけばいいのかっていうところが1回目の課題ですね。お金を取ってやるんで、決め事は決め事でちゃんとやって、演劇祭というお祭りを楽しんでやりたいですね。
←
舞台から客席を撮ったところ。
写真左手が入り口になります。
客席奥にオペブースがあります。
←
聞き手:
-最後に劇場のPRみたいなことを、よろしければお願いします。
坂田さん:
やはり小さいところを、どう知恵を出して使ってもらうかみたいなところはありますよね。小さいからこその楽しみ方もあるっていうか。
あとは新宿と言う立地ですね。そして値段も安いっていうことです。
聞き手:
-どうも貴重な時間を割いて頂き、ありがとうございました。
新宿サニーサイドシアター・坂田さんのインタビューでした。
少々長く話し込んでしまい、いつも持って行くテープも終わってしまって最後は筆記で紙に書き留めていました。
劇場を作るってほんとに大変なんですね。そこまで消防法とか決められていると、作る気を削がれるみたいな事を坂田さんも仰っていましたし。それだけ凄い労力というか信念みたいなものが必要なんだなと感じました。
最後に、今回は掲載が遅くなってしまってすみませんでした。m(_ _)m
新宿サニーサイドシアターHP
http://www8.ocn.ne.jp/~sunnyway/
メールアドレス
yumehiko@oregano.ocn.ne.jp
住所
東京都新宿区新宿2-6-8小沢ビルB1
劇場TEL:03-3355-7377
事務所TEL&FAX:03-3415-4251