劇場さんインタビュー

第2回:明石スタジオさん

第2回:明石スタジオさん

時:2002年8月28日
場所:明石スタジオ・事務所内
語り手:劇場支配人 浅間さん

~明石スタジオの由来と小劇場今昔~

聞き手:
-本日はありがとうございます。
早速お伺いさせていただきますが、まず明石スタジオという名前の由来からお聞かせ願えますか?

浅間さん:
明石澄子さんという方が1980年に米寿の記念に建てたのね。
彼女は松井須摩子さん*1の妹弟子にあたり、師匠は島村抱月*2。兄弟女優でね。すま・あかし*3。坪内逍遥*4が名付け親でね。

*1:松井須磨子(まついすまこ)
1886~1919 新劇女優の第一人者。
*2:島村抱月(しまむらほうげつ)
1871~1918 日本近代演劇の創始者としてその普及・大衆文化に大きな役割を果たした。
*3:須磨・明石(すま・あかし)
どちらも有名な神戸市にある観光地。源氏物語や松雄芭蕉の句などにもセットで登場する。
*4坪内逍遥(つぼうちしょうよう)
1859~1935 小説家・評論家・劇作家・英文学者・教育者として幅広く活躍。坪内逍遥が欧米の演劇視察旅行から帰国後、文芸協会演劇研究所を創設し、松井須磨子はその第一期生として入学してきた。その演技指導にあたったのが、島村抱月。

聞き手:
-すごいですね。歴史上の人物が出てくるなんて。

浅間さん:
明石さんは元気なおばあちゃんでね、自分の劇場を持つのが夢だったんだよ。だからここは劇場専用に建てたんだ。

聞き手:
-タッパも高いですしね。開館されてから、改装などはされたんですか?

浅間さん:
いや、消防法が改正された時にダクトを作るぐらいで、今も劇場は当時のままだね。

聞き手:
-浅間さんは22年間ずっとこちらに?

浅間さん:
建って1年経ってからぐらいかな。その頃はシアターグリーンとジャンジャンぐらいしかなくて、小劇場っていうのはほとんどなかったんじゃないかな。それから1・2年してスズナリさんが出来た。


明石スタジオさん外観。
入って右が舞台、左が事務所になっています。

聞き手:
-開館当時の劇団さんはどのような感じだったのですか?また、昔と今の劇団さんとの違いなどはありますか?

浅間さん:
当時はアングラも多かったね。発見の会みたいな。今は利用する人は若い人だから。
有る時期から変わってきた。ちゃんとしてきた。今はHPなど色んな情報があって、利用料金等が書いていたりしてるよね。だから今はみんなちゃんとはらってくれる。昔は皆、値切ったからね。

聞き手:
-「これしかないんですけどー。」みたいな?

浅間さん:
そう。
そう言う意味で今はちゃんとしてるじゃない。貴方も小劇場やってるからわかるだろうけど、スタッフもプロ使ってるじゃない。昔は、もうなんとなく調光卓を弄くれるぐらいのやつがやってたりしてたから、石がよく飛んだりしてたね。
「壊れたんですけど。」って。
「違うだろ、壊したんだろ。」ってよく言ってたんだけど。(笑)
ただ今はもう良い小屋どんどんできているから、うちはどんどん場末の芝居小屋になってくる。(笑)

聞き手:
-そんなことないと思いますけれど。

浅間さん:
やっぱなんていうの?今はみんな形から入るの好きみたいだから。
例えば「下北沢でやりたい、新宿でやりたい」っていうのが最初にある。逆に「ホールの特徴を捉えた芝居をやりたい」というような事にあんまりこだわらなくなっちゃった。
やっぱタッパが必要な芝居はタッパがある小屋でやればいいんじゃないかなと思うんだけどね。


客席から舞台方向を撮った写真。
キャパシティは通常120人。
広さは、間口8.4m×奥行き11.4m。
天井高4.5mと、その高さが特徴的。

聞き手:
-タッパが充分ある小劇場ってあんまり無いんですもんね。
浅間さんが劇場をやっていて良かった事・面白いとお感じになるところってどんな事ですか?

浅間さん:
いろんな面白い芝居を見られたり、いろんな出会いがあるからね。それが良いっていうか楽しい。
あと、今の若い人って物怖じしないじゃない。特にウチでやる連中っていうのは若い人が中心だから、「おまえらそれは無茶だろ。」っていうのがあって。(笑)
そう言う面白さ見たいなのもあるね。

聞き手:
-その無茶だろっていうのはどのような?

浅間さん:
例えば、昨日まで客席にいた人が今日から舞台に立っているっていう。昔と違って今は方法論というのが無いじゃない。だからそういう発想が逆に面白いって言うのもあるね。
ただ、昔に比べ立ち姿とか、センスは良くなっている。「よくこんな緊張しないで出きるな。」って思うもの。物怖じしないって言うところかな。

聞き手:
-では反対に、劇場を運営してきて「これやられちゃったー。」「これは本当に困った。」というようなエピソードはありますか?

浅間さん:
一番は、小屋代が入らなかったとかね。ずいぶん昔だけど逃げられちゃったりね。そう言う事もあった。何度か連絡取ったけどそのうち連絡取れなくなっちゃって。今はそう言う事無いけどね。たまに「支払い待ってくれ」って言われる事はあるけれどね。昔は支払いも分割という事もあったんだよ、1年2年かけて。
でも小屋代が入らなかったとかはそんなに嫌なことじゃない。もちろん、劇場的には痛いけれど。
音の出しすぎで参ったなっていうことはあったけど。苦情がきちゃったり。本番とリハーサルとは全然ボリュームが違ったりするからね。
あと、学生さんって世間では良く学割とかあるけれど、劇場に関しては、全部が全部じゃないけれど、サークルの乗りでやっちゃうから、よく学生さんにね「本当は学生割増もらいたいぐらいだよ」って言ってるね。スタッフがちゃんとしていればいいけれど。

~「だからきっとこういう芝居小屋にずっといるんだよ。」~

聞き手:
-やはり綺麗につかってほしいですものね。

浅間さん:
いや、仕込み前の状態に完全復帰してくれれば何やってくれてもかまわないよ。そういうことは言っているけれど。ただ「ごめんなさい」はだめだよ。
プールを作ったところもあったけどそういうところはちゃんと養生して、しっかりやっていたし。有る約束事さえ守ってもらえばいいよ。本をあらかじめ読ませてもらって・・・というような事は一切無いしね。
以前、ゴキブリコンビナートがやった時にはちょっと慌てたけどね。あれはみんな劇場さん焦るんじゃないかな。その時には泥を使ったのかな。おもしろいんだけどね。見ててくだらねぇ、面白いなっていうところもあるんだけど、はらはらしたな。彼らスタッフがしっかりしてるから良かったけど。それでも色々言ったりもしたと思うし。
だってこっちはほら、文句言う立場だから。(笑)
ただそれでもそん中でやるんだったら面白いものやって欲しいし。こっちはルール守ればぜんぜんOKだから。

聞き手:
-(聞き入っている…)

浅間さん:
芝居って相対感ではなく絶対感的な、その本人が気に入ればいいわけじゃない。芝居する連中ってそれ確信犯でやってるわけだから。それを俺は割と面白がれると思うし。
面白い芝居ってよそにも見に行くけれど・・・、「あ、面白かった。」「でももういい。」「面白いのはわかった。」俺はそうじゃないなんか違うやつらと出会いたい。だからきっとこういう芝居小屋にずっといるんだよ。(笑)

~「TV等を見るのとは違うシチュエーションがやっぱ劇場ってある」~

聞き手:
-明石スタジオさんの特徴的なところは、やはりタッパでしょうか?

浅間さん:
うん。照明さんやりやすいでしょ。

聞き手:
-はい(笑)

浅間さん:
あと、調光室が居心地いいからね。ちょっと、その分客席が悪くなっちゃった。本来逆なんだけどね。(笑)
設計頼んだ人が照明さんで「俺はこれだけ(スペースが)欲しい」っていうのがあってね。そのまま休憩室になるだろ。(笑)

聞き手:
-はい。オペスペースがゆったりしてるのはそう言う訳だったんですか。

ところで、少し前に「(劇団)カクタさん」の公演の際の噂をお聞きしまして。公演時、1階は凄く客席が寒くて3階は非常に暑かったとか。氷水をお客さんに渡していたと言う・・・。

浅間さん:
本来3階は客席じゃないからね。冷気は下に行くから。上は暑いもん。
今の劇団って本当にお客さんに顔を向き過ぎているかなっていうのはあるよね。お客さんが涼しい・寒いっていうとちょっとクーラー止めたり。でもそういうお客さんて、暑くなれば暑いってまた言い出すんだよね。たかだか1時間半かそこらじゃない。昔の小劇場なんかぎゅうぎゅう詰めで見てたからね。
ウチの記録がね、284(人)入った事がある。


舞台上奥にあるハッチ
ここから楽屋に行けて便利。

聞き手:
-284(!!!)どうやってそんなに・・・。

浅間さん:
100以上入るといっぱいになるから。それは調光室にも入れて。だから、うん、昔の劇団てしたたかじゃない。「客は絶対返すな。」「来てくれた客はどんなところでも見せる。」
だから、「よくそんな詰めるなぁ」って言う程詰めたりするから。今は満員御礼なんつって返しちゃったりするけど。
284はちょっと極端な話だけど、昔は200超えた劇団結構あったな。平気でその窮屈な中で芝居見るの。皆芝居見るの好きじゃない。「せーのっ」*5で席をつめたりして。

聞き手:
-最近あまり見なくなりましたねー。「せーのっ」

浅間さん:
うん。客席も良くなってきてるし。1人1座席になってきてるから。
長椅子も無くなってきてるねー。ウチぐらいのもんじゃないか?
今は上品になったよね。ただ、こっち(お客さん)にダイレクトにぶつかる「熱」見たいなのはちょっと減ってきてるかな。

*5:「せーのっ」
長椅子やベンチシート・桟敷・座布団などの席で、少しでもお客さんを座らせるための掛け声。
通常、会場の客入れ係の人が音頭をとって、「せーのっ」でお客さんがいっせいに一方に寄る。

聞き手:
-それはお客さんに顔を向けているというか、目線を合わせてきたと。

浅間さん:
だから、かなりみんな(お客さんの事)気にしてるじゃない。うちもよく主催さんと話するけど、「客席がね、もうすこし良くなってくれればね。」って。

聞き手:
-「そんなのあまり気にすんなよ。」と。

浅間さん:
良いもの見せてくれたら気になんないし。まあ俺らの世代だったら長椅子に座らされるのつらいかもしれないけれど。
でも若い頃はそう言う風に芝居見ても、面白かったらやっぱり見てくれるし・・。面白い芝居だったら我慢できる。つまんない芝居だったら更につらくなるけど。
わざわざ自分でお金払って電車乗って足運んで来るんだから、そう言う体験でいいんじゃないかなって。ラクしたいんだったら、家でひっくり返ってテレビみれば良いんじゃないかって。そうじゃないシチュエーションがやっぱ劇場ってあるわけじゃない?俺はそういうことをもっと楽しんだらいいんじゃないかって。そう思うのね。
(立場上)劇団には言えないけどね。おっさん古いよって言われるくらいのもんだからね。

聞き手:
-そうですか??

浅間さん:
今の子らってドライじゃない。それこそ芝居が終わって飲みに行ってもあんまり芝居の話しなかったり。もちろんおやじのノスタルジーって言われればそうかもしれないけど。
ただシステム化はしてるじゃない。「こんなちいちゃい小屋でSTAFFカード作んなよ。」と思うんだけど。「それやるんだったら他にやることあるだろ。」っていうのもあるんだけど。(笑)
でも形から入るの好きみたいね。

聞き手:
-そうかもしれないですねー。
今また新しい劇場さんがオープンしてたりしますが、浅間さんが「元気があるな」とか「気になっているな」と思う劇場さんはありますか?

浅間さん:
アゴラ(劇場)さんはがんばってるねー。地方から劇団呼んだり、ああ言う企画ね。やっぱ平田(オリザ)さんがバリバリ自分でやってるから。はたから見てても頑張ってるんじゃないかなと思うね。


そしてこれが楽屋。
出演人数次第だが、ゆったりしている。

~〔勝手に応援月間〕と〔ウィークデーシアター〕~

聞き手:
-明石スタジオさんもそういうことなさってるんですか?

浅間さん:
かつてはやってたけどね。「勝手に応援月間」みたいなの作って、何年かやってた劇団に声かけて、俺ら勝手にポスター作って。勝手に応援月間。(笑)

聞き手:
-(笑)それいいですね。

浅間さん:
まぁ劇団にしてみれば何が有り難いって、小屋代安くしてくれるのが一番有り難いんだから。だから安くしてあげて。そういうことはやったかな。あとは「おめぇらがんばれよ。」と。
ある意味趣味だよね。客呼べないけど、俺が「あ、この劇団面白いな」っていうところを声かけて応援して。
あとはね、「ウイークデーシアター」っていうの。劇場って月曜とか火曜とかは空いてる事があるから、そういう日に、当日仕込んで当日本番。一人芝居か二人芝居。1000円か1500円の低料金(設定)で。
これはね、電気代を15000円払ってもらって、あとは当日の入場料を折半する。だからリスクないじゃない。まぁ40人50人でも15000円払いきれちゃうからね。そういう事はやってたね。

聞き手:
-へぇ。今はやられてないんですか?

浅間さん:
今でもウチはそう言う心構えがあるよ。だから、向こうから相談に来てくれればやるような形になってくるかな。そのへんは相談にのれるよね。
でもあんまりやるとね、自分の休みがなくなっちゃうんだよね。(笑)

聞き手:
-本当に好きじゃなきゃ出来ないですね。

浅間さん:
それでも8ヶ月とか毎月連続公演やってたね。一人芝居とか。

聞き手:
-(笑)お休み無くなっちゃいますね。

浅間さん:
いやでも、それは月に1回か2回。それを8ヶ月ぐらい。そのくらいの休みは無くてもね。

聞き手:
-現在は、明石スタジオさんはイベントとかフェスティバルとかってやられてますか?

浅間さん:
今はやってない。俺自身の中にはフェスティバルみたいなのに抵抗があるのね。それこそねぇ、それぞれの劇団がそれぞれの志を持っているのに一括りにされるっていうのが・・・。
だから、うちで手助けできるのは、「ウイークデーシアター」みたいにお金ほとんどかけないでやるっていうのを協力はできる。
劇団じゃ出来なくても、「一人芝居やりたいなぁでもやる場所がねぇなぁ」っていうところとか。

聞き手:
-一人芝居やるにはちょっと贅沢な小屋ですねェ。(笑)

浅間さん:
(笑)そのかわりほら、当日仕込んで当日本番だから、のりうちと同じでやんなきゃなんないから。そりゃ大変さ。セットもほとんどない、素舞台の状態でやれるようにやんないと間に合わない。

~「大変ていう自覚がねぇなぁ。」~

聞き手:
-20年以上という長い間劇場を運営されてきて、一番大変なことは何ですか?

浅間さん:
うーん、大変だったら俺がもう音を上げちゃうからね。大変ていう自覚がねぇなぁ。
目先が変わるじゃない、毎週違う物が入ると。だから俺が退屈しないのかもしれない。だから逆に、ものすごい楽しいわけじゃないかもしれない。だから続いてるのかもしれない。この(劇場の)サイズの面白がり方が22年間で体に染み込んでるのかもしれないな。

聞き手:
-浅間さんの後ろに、歴史と言うかオーラみたいなものが見えるような気がします。
最後に、PRみたいなのがありましたらお願いします。

浅間さん:
PR?
弱点言おうか。

聞き手:
-は?弱点。

浅間さん:
音響設備が弱い。使う人間は覚悟してくれ。(笑)

聞き手:
-ありがとうございましたぁ!

明石スタジオ・浅間さんのインタビューでした。

こちらで用意している質問や内容より、浅間さんのお話の方が面白くなってしまいまして…。
劇場のお話をお聞きしながら、「小劇場のお芝居や人が本当に好きじゃないと、劇場運営ってやっていけないんだろうな」と感じた私でした。20年も小劇場を見つづけてきた方のお話をお聞きする事が出来、また最後には励ましのお言葉も頂きまして、大満足しながら高円寺を後にした私でした。
…しかし、当日は高円寺で阿波踊り祭(?)があったとは私つゆしらず…。凄い人人人でした…。

ここに本文を記入してください。

明石スタジオHP
http://www.akashi-studio.net
メールアドレス
aaa@akashi-studio.net
住所
東京都杉並区高円寺南4-10-6
電話番号
03-3316-0400

明石澄子さんについては↓こちらのリンク(多磨霊園のサイト)↓に簡単な略歴があります。ご参照下さい。
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/A/akashi_s.html